「親自身が元気なうちに遺言書を作成しておこう」――こんなお話を聞きます。それ自体はもちろん大切なことです。ただ、その前に、ぜひ家族で一度きちんと話し合っていただきたいことがあります。相続のトラブルを防ぐために、遺言書を作成する前の家族会議が、実は最も重要であることをご存じでしょうか。「遺言書があっても揉める」という現実行政書士として相続のご相談をお受けしていると、このようなお話を聞くことがあります。「親が遺言書を残してくれたのに、相続に関するトラブルが生じてしまった……」一見すると矛盾しているように感じられるかもしれません。しかし、これは珍しいことではありません。遺言書があるからトラブルが起きないというわけではなく、むしろ相続手続きを進める過程で、遺言書の内容や親の資産状況が予期しないものだったことが判明し、その時に問題が浮き彫りになることがあります。遺言書とは何かここで、遺言の本質を改めて確認しておくことが大切です。遺言は、被相続人が生前に残した最終的な意思表示であり、故人の財産の処分やその他の事柄に関する希望が法的に有効な形で示されたものです。つまり、遺言書は「親の最終的な想い」を、法的に有効な形式で記録したものなのです。しかし、その「想い」が家族全員に共有されていなければどうでしょうか。親の真意が不明確なまま相続手続きが進むと、相続人が納得できないまま進むことになり、トラブルが生じる可能性が高まるのです。なぜ家族会議が必要なのか理由は、大きく3つあります。① 本人の真意を、全員で共有するため例えば、ご両親が「長男に家を相続させたい」と考えていたとしましょう。その理由が何なのか。家業を継ぐから、それとも長男だから、あるいは親孝行してくれたから。理由によって、他の兄弟姉妹の納得度は大きく異なります。本人の想いや背景を事前に共有していれば、後々「親はなぜこんなことをしたのか」という疑問や不満が生まれにくくなります。② 家族間での予期しないトラブルを防ぐため親は親で、「相続の話なんて、まだ先のことだから話したくない」と考えられるかもしれません。しかし、相続について何も知らされていない子どもたちは、親の急逝時に大きなショックを受けることになります。その混乱や感情的な不安定さが、相続手続きの過程で「なぜ兄はこんなに多くもらうのか」という疑問に変わることもあります。③ 遺言書の内容そのものをより適切にするため親の想いを聞く過程で、実は「そのようなことであれば、こういう方法もあります」という選択肢が見つかることもあります。例えば、相続税対策や、より公平な相続方法の提案などです。家族会議で確認しておくべき具体的な内容相続のトラブルは、相続人同士の意見の相違だけが原因ではありません。むしろ、親の資産状況や権利関係が正確に把握されていないことが、予期しない問題を生じさせることが多くあります。家族会議では、以下のポイントをしっかり確認しておくことをお勧めします。親の資産の形成経緯現在の資産がどのようにして形成されたのかいつ頃から、どのような経営や職業で形成されたのか現在の権利関係不動産が共有名義になっていないか登記簿謄本に複雑な権利が記載されていないか過去に贈与を受けた土地や建物がないか過去の贈与相続人の中で、生前に親から贈与を受けた人がいないか親が第三者に対して贈与をしていないか負債の有無見落とされやすい借金やローンがないか保証人になっている債務がないかこうした情報を事前に整理しておくことで、相続人全員が相続手続きの現実を正確に理解することができます。その結果、予期しないトラブルや、後になって「こんなことになっているとは知らなかった」という事態を防ぐことができるのです。家族会議、具体的にはどうしたらいいでは、どのように進めればよいのでしょうか。ステップ1:親が率先して声をかける「この機会に、相続について家族で話し合いたい」と、親が家族に呼びかけることが大切です。気後れするかもしれませんが、これが最もシンプルで効果的な方法です。ステップ2:冷静に、焦らず話し合う相続の話が出ると、お金のことが中心になり、感情的になることもあります。落ち着いて、親の想いや事情をしっかり聞くことをお勧めします。ステップ3:相続手続きは専門家にサポートしてもらう複雑な相続の場合や、家族間に意見の対立がある場合は、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。相続手続きの書類作成やスケジュール管理など、技術的なサポートについては行政書士がお手伝いいたします。遺言書作成は、家族会議の後でこうした家族会議を経た上で、必要に応じて遺言書作成を進めることをお勧めします。なお、状況の変化に応じて、家族会議を改めて行い、遺言書の見直しを検討することも大切です。その時点での遺言書は、「親の真意が家族に理解された上での遺言」となります。結果として、後々のトラブルもぐんと減ります。実務経験から感じるのは、相続のトラブルの多くは、相続人同士の「想い」や「背景」の理解不足が原因であるということです。遺言書は、確かに大切な書類です。しかし、その前に、家族での対話があれば、さらに有効なものになるのです。親御さんが元気なうちに、ぜひ家族で相続について話し合ってみてください。それが、最高の相続対策になるはずです。相続について、ご不安なことやご質問がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。