「自分が亡くなった後のことは、遺言書を作っておけば大丈夫」
そう考えている方もいらっしゃるかもしれません。
遺言書は、自分が亡くなった後に財産を誰に引き継いでもらうのかを決めるためのものです。預貯金を誰に相続させるのか、不動産を誰に遺贈するのか。こうしたことを自分の意思で決めておくことができます。
しかし、人が亡くなった後に残るのは財産だけではありません。葬儀をどうするのか。納骨は誰に頼むのか。住んでいた部屋はどうするのか。電気や携帯電話などの契約はどうするのか。
「おひとりさま」という言葉から、一人暮らしの高齢者を思い浮かべる方も多いと思います。しかし、ここで問題にしたいのは一人で暮らしているかどうかではありません。自分が亡くなった後のことを頼める人がいるかどうかです。
人が亡くなった後には、いろいろなことが残る
一人暮らしをしている方が亡くなった場合を考えてみます。
親族や関係者への連絡、葬儀や火葬の手配、納骨や埋葬、賃貸住宅の明渡し、家財の整理。電気・ガス・水道、携帯電話、インターネットなどについても、それぞれ必要な手続きがあります。
一つ一つを見れば、特別に難しいことばかりではありません。問題は、亡くなったご本人が手続をすることはできないということです。
配偶者や子どもがいれば、その人たちが対応することが多いでしょう。子どもはいないが兄弟姉妹がいる、甥や姪がいるという場合もあります。
しかし、親族がいることと、実際に頼める人がいることは同じではありません。長い間付き合いがない。遠方に住んでいる。高齢の兄弟に負担をかけたくない。あるいは親族との関係そのものが良くない。家族の形や人間関係によって事情はさまざまです。
こうして考えると、これは必ずしも高齢者だけの問題ではありません。自分が亡くなった後に誰が何をするのか。単身世帯が増えている現在、考えておく必要のある人は以前より多くなっていると思います。
遺言書でできること、できないこと
では、こうした希望を遺言書に全部書いておけばよいのでしょうか。
遺言書は、財産の承継について大きな力を持ちます。「預貯金を○○に相続させる」「不動産を○○に遺贈する」といった内容を定めることができますし、遺言執行者を指定して、遺言の内容を実現するための手続きを任せることもできます。
一方、亡くなった後に発生する事務のすべてを遺言書で処理できるわけではありません。
葬儀をどうするのか、どこに納骨するのか、誰に亡くなったことを知らせるのか。住居や家財をどうするのか。契約していたサービスをどう処理するのか。
こうした死後事務について遺言書に希望を書くことはできますが(付言事項)、原則として遺言としての法的な効力は生じません。 遺言によって法的な効力を持たせることができる事項は、法律で定められているためです。
「財産を誰に承継させるか」という問題とは性質の異なるこのような事務を特定の人に頼んでおく方法の一つが死後事務委任契約です。
死後事務委任契約とは
死後事務委任契約は、自分が亡くなった後に必要となる事務を第三者に任せるため、生前に結んでおく契約です。
例えば、葬儀と火葬の手続きをしてほしい、指定した場所に納骨してほしい、亡くなったことを友人に知らせてほしい、携帯電話などの契約について必要な手続きをしてほしい、といったことをあらかじめ決めておきます。
政府が2024年に策定した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」でも、死亡時の関係者への連絡、葬儀に関する手続き、納骨、家財の処分、各種契約の解約などが死後事務サービスの例として挙げられています。
もっとも、「自分が死んだ後のことは全部お願いします」と書いておけば済むという話でもありません。
何を頼むのか。葬儀はどのように行うのか。どこに納骨するのか。そのためのお金をどう用意しておくのか。
本人が亡くなってから「話が違う」と言うことはできません。頼む内容はできるだけ具体的にしておく必要があります。
遺言書と死後事務委任契約は役割が違う
遺言書と死後事務委任契約は、どちらか一つを選べばよいというものではありません。
例えば、残った財産を特定の人や団体に渡したいのであれば、その意思を遺言書に残します。一方で、自分の葬儀や納骨を誰かに頼みたいのであれば、その部分について死後事務委任契約を結んでおくことが考えられます。
さらに、自分が生きている間に認知症などで判断能力が低下する可能性もあります。そのときの財産管理や生活上の手続きを誰に任せるのかという問題には、任意後見制度などがあります。
同じ「老後の備え」として一括りにされがちですが、任意後見、遺言、死後事務委任はそれぞれ役割が違います。
いつから必要になるのかも違います。自分が判断できなくなったときのことと、自分が亡くなった後のこと、残した財産の行き先は、分けて考えたほうが整理しやすいでしょう。
まずは「誰に何を頼むのか」
遺言、任意後見、死後事務委任など、老後や死後に備えるための制度や契約はいくつもあります。制度の名前や違いを一つずつ調べる前に、まずは自分が「誰に何を頼みたいのか」を考えてみたほうが話は整理しやすいでしょう。
判断能力が低下したら、お金の管理を誰に頼むのか。
自分が亡くなったら、誰に知らせてほしいのか。
葬儀や納骨をどうしてほしいのか。
住んでいる部屋や家財をどうしてほしいのか。
残った財産を誰に渡したいのか。
こうした希望を整理するためには、エンディングノートを使う方法もあります。 遺言書のような法的効力を持つものではありませんが、自分の財産や契約しているサービス、連絡してほしい人、葬儀や納骨についての希望などを書き出しておけば、自分が何を準備しておく必要があるのかも見えてきます。
また、法的効力がないから意味がないというものでもありません。例えば、葬儀について遺言書に希望を書いても原則として遺言としての法的効力は生じませんが、エンディングノートに自分の希望を書いて家族や死後事務を任せる人に伝えておくことには意味があります。
その上で、財産の承継については遺言書、判断能力が低下した後のことについては任意後見、亡くなった後の事務については死後事務委任というように、必要な仕組みを考えていけばよいでしょう。
親族がいる場合でも同様です。「子どもがいるから大丈夫」「甥がいるから何とかしてくれるだろう」と考えていても、その人が何をどこまでしてくれるのかは別の話です。頼みたいことがあるのであれば、元気なうちに話をしておくに越したことはありません。
元気なうちだから決められること
自分が亡くなった後のことを考えるのは、あまり楽しい作業ではありません。
「終活」という言葉にはどこか大げさな響きを感じることがあります。実際に必要なのは、自分の人生の終わり方を立派に設計することではなく、自分ができなくなったことを誰に頼むのかを決めておくことなのかもしれません。
遺言書を作ることも、その一つです。ただ、遺言書を一通作ったからといって、自分が亡くなった後のことが全部片付くわけではありません。
財産の行き先は決めた。では、その前後に残ることは誰に頼むのか。身近に頼れる人がいないのであれば、そこまで考えておく必要があります。
参考資料
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